キリと悪魔の千年回廊

「えっと、それはねー…………」

にこにこしながらキリが口を開いた。








「……──これより先は余がおまえに魔法の使い方を教えよう」

そう言って、

あの後、
ひっそりと部屋の中にたたずむ不吉な影は、キリの頭をなでながら次のように命じた。

「その引きかえに、
おまえはこれより毎月、新月の晩に余のための供物を用意するのだ」

「くもつ?」

不思議そうにたずねるキリに、


「つまり食事だ」


と、影はかみ砕いて教えた。

美しい口もとが、うっすらと笑いを形作った。


「余も食事をせねばおまえに力を貸してやれぬ。

よいか。必ずおまえ自身が、余のために用意するのだ。
それを余が食すことに意味がある」


よくわからないままにキリがうなずくと、
黒い影はどこからともなく取り出した赤い石を彼女の手ににぎらせた。


「これ、なあに?」

床の魔法陣の光を受けてキラキラ輝くきれいな石だった。

「これは、処女であるか否かを見極める石だ」

「しょじょって?」

「余が食すにふさわしい、汚れのない体であるということだ。
おまえのようにな」

「ふうん?」


その言葉の示す意味は、七歳の少女には理解できようはずもなかったが、

ふふふ、と影はあやしく優しく笑ってこう続けたのである。


「新月の晩ごとに一人、その石を使って余のために処女の生贄を用意しろ。

一人目は一月後の新月の夜だ。
それまで余はおまえの求めに応じて魔法を教えよう。

つまり、この契約は余が先払いということになる。

ようく覚えておけ。
必ず余は、新月には一月間の支払い分を回収させてもらうぞ。

もしも今説明した見返りを用意できぬ新月の晩が訪れたならば、そのときはおまえ自身を余に捧げてもらうことになる。
契約もそれまでだ」








「……だから毎月一人、処女を探して準備しないといけないのー」

と、キリはかわいい笑顔で言った。

ラグナードが固まった。

「だまして連れてくるのが、けっこう大変」

キリはふう、と息をついて、

ずっとこれまでも胸につけていた、赤い石のブローチをはずして自慢げにラグナードに見せた。

「それでね、これがその『悪魔の眼』っていう石でね、これを通して人間を見ると、処女かどうかわかるの」

いいでしょー、と子供がおもちゃを見せびらかすように、キラキラ光る透きとおった赤い石のブローチを陽光にかざして、

キリは首をかしげた。


「そう言えば、ジークフリートとラグナードは処女?」