キリと悪魔の千年回廊

古木のようだった老人の皮膚から、見る間にしわが消えていく。

ひからびていた肌はみずみずしくうるおい、

まっ白だった毛髪は、美しいアメジストの色つやを取りもどす。


「お……おお──!」


シムノンは喜びに身をうちふるわせた。


老人の顔が、
見る間に壮年のものに、
そして若々しく美しい青年のものになり──



──そこで止まらなかった。



青年の容貌は少年へ、

さらに幼児へとさかのぼり、


「あれれ?」


すっかり身の丈が縮んで、
だぶだぶになった服をまとった五歳児ほどの子供を見つめて、

キリは大きな目をまたたいた。


「な──なんだ、これは……!?」


自らの体を見下ろして、
いまやキリよりも幼い姿となったシムノンが、子供の声で悲鳴を上げた。


「え? え?」

キリは紫色の髪の幼児と、
腹を抱えて笑っている黒い影とを見比べた。


「余は老いを消すように言ったのだぞ。
おまえが消したのは時間──それも、少々消しすぎだな」

「わたし、失敗……しちゃったの……?」

「いや。まあ、初めて魔法を使ったにしては上出来だ」


その言葉を耳にして、シムノンははじかれたように顔を上げ、
悪魔の顔をにらみ上げた。


「貴様ッ、こいつが魔法を使うのが初めてだと知っておったな!?」

「おっと」

悪魔はおどけたように肩をすくめた。

「これは失言であった」

にやついた顔が、確信犯であることを物語っていた。

「しかし、これで望みはかなったな」

「な──」

「喜ぶがよい! おまえの中より時間は消滅した。
本日この瞬間より、今後いっさい、おまえは歳をとることはない」


悪魔の宣告に、

幼児の姿まで時間を巻きもどされた魔法使いは絶句した。


「永遠にその姿のままだ」


白い霧に悪魔の哄笑が響きわたる中、

小さくなったシムノンを、キリはぽかんとながめた。



「殺してやる!」

ふいにシムノンがさけんで、魔力のこもった瞳にキリを映した。

「どろどろに腐り落ちて死ねッ」

虫の羽音のような音をたてて、キリのまわりをどす黒い煙のようなものが包みこんだ。

「い……いやだ……」

キリは恐怖に身をすくませて、

「おっと」

と、悪魔が言って、ふわりと腕を一振りした。

それだけで、強力な毒の魔法はキリの周囲からかき消える。

「勝手に余の契約者を殺してもらっては困るな」