キリと悪魔の千年回廊

「この者から、老いを消滅させるのだ。
霧にして消してしまえばよい。そのための魔法を、おまえはすでに知っている」

「ま、待て……!」

シムノンは顔面蒼白になって、かすれた声をしぼり出した。

「じょうだんじゃない! そ、そんなガキに……」

「なにを言う。この子供はおまえの弟子なのであろう?
おまえは余をこうして招いたほどの魔法使いではないか。
たとえ子供であっても、さぞかししっかりと魔法を教えこんできたに違いない。

それに余の魔法の知識を授けたのだ。
おまえの実力を鑑みるに、この子供がおまえの弟子ならば、おまえに永遠の若さを授けることなど完璧にこなせると余が判断した。

どちらの望みも叶えるための最善の策だ。もっと己の弟子を信頼するがいいぞ」

すらすらとよどみなく、
いっさいの反論を許さぬ口調で悪魔はそのように語り、

シムノンは喘いだ。

「待て……待て……! お、教えていない──」

ははは、と悪魔は体をゆらした。

「なにを言っている?」

「ま、魔法など……儂は、そんなガキに、教えていない……!」

「そんなはずはあるまい。
弟子にしてやると言っておきながら、魔法を教えぬ魔法使いなどいるはずがないからな」

悪魔はまるで聞く耳を持たぬ風を装って断言した。


むろん──

シムノンがキリに何も教えていないことなど、キリからうらみつらみを聞かされた悪魔は百も承知だった。

承知の上で、
人を弄ぶ悪魔は、この趣向を思いついたのである。


「さあ、やれ」

悪魔がキリに命じた。

「……わたし、いやだよ」

キリは蚊の鳴くような声で拒否した。

「こんなやつの望みのために、どうしてわたしが魔法を使ってやらなくちゃいけないの」

「そ……そうだ、貴様がやれ、ロキ」

シムノンが必死になってそれに便乗した。


「よいか」と、うつむいたキリの頭をなでて、悪魔は言った。

「これは師匠のためではない。
おまえ自身のために、魔法を使うのだ」

「わたしの……ため?」

「おまえ自身が、魔法を上達させるためだ。
おまえの望みをかなえるためにな。
魔法使いならば、己のために魔法を使うことを惜しんではならぬ」

悪魔は優しくそう諭した。

こんな風に誰かから教えを受けるのは、キリにとっては初めてのことだった。


「おまえはおまえの望みをかなえたくはないのか?」


キリは、床に倒れて動かないセイの亡骸をにらんだ。


「……わかった」と、キリはうなずいた。

「わたし、やる」

「いい子だ」

悪魔が笑顔になり、

「やめろ──!」

シムノンが絶叫して、




キリは、生まれて初めて魔法を使った。




キリのエメラルドの瞳が、あやしく光を放ち──