キリと悪魔の千年回廊

嫌な感じだった。

とてもとても嫌な感じ。


シムノンのもとにひきとられてから、彼女が毎日のように味わったのと同じ──外から何かが自分の頭の中に入り込んでくる感覚だ。

また操られてしまうのかとキリはおびえた。


だが、今度は体の自由や意志が奪われることはなかった。


「な、なんだ……?」


横から見ていたシムノンが、警戒しながらたずねて、


「おまえたち二人にぴったりの案があると言ったであろう?」

キリを見下ろしたまま、悪魔はふ、ふ、と笑った。

「おまえがこの子供に対してやっていたことと同じ──いや、それよりも簡単なことだぞ。

操りはせずに、ただ余の中にある魔法の知識とこの子供の頭をつなげただけだ。
つまり──」


自分に何が起きたのかわからずに、キリはくびをかしげる。


「現在、過去、未来における──余の知りうるすべての魔法の知識をこの子供に授けた」


と、キリの頭をなでて客人(まろうど)は微笑した。

キリはきょとんとその綺麗な顔を見つめ返した。


シムノンは仰天した。

「そのガキは、いったい何を望んだ!?」

「それは余とこの子供との契約内容。おまえに知らせる義務はないな」

悪魔はそっけなくそう答えて、


待ち望んだショーの始まりを前にした幼子のように無邪気な、

しかしとてつもない悪意に満ち満ちた瞳をシムノンに向けた。


「さて、今度はおまえの望みを叶えてやらねばな」

おお──と、シムノンの口蓋から歓声がもれ、胸が喜びに高鳴る。

「永遠の若さであったな」

「そうだ」

「よし。では──」


悪魔は、キリの頭をポンと叩いた。


「その望みは、おまえが叶えてやれ」


シムノンの表情が凍った。


「え?」とキリが黒い影を振り仰ぐ。


「余は、確かにおまえにすべての魔法を授けたが、それだけだ。

おまえの望みをまこと叶えるためには、まずはおまえが、おまえの力でそれらの魔法を使えるようにならねばならぬ。
契約に従って、余はその手ほどきをしよう」


「え?」

目をしばたたくキリに、

「さあ、最初のレッスンだ」

と、悪魔は言った。