キリと悪魔の千年回廊

老人が、霧の中からはい出てきた何かと嬉々として会話するその背後で、



「どうして……? いやだよ、キリ」

キリの耳に、涙をうかべた目でセイが残していった言葉がこだました。


「死にたくないよ」

「やめてよ、キリ」

「ぼくは」

「きみを──……」



ぎゅっと、キリは両手を握りしめる。


ああ。セイは魔法使いになりたがっていたのに。

ただ一つの魔法も使うことも生涯できずに、キリに殺されて死んでしまった。



セイの命を踏みつけて、

キリの霧の魔法を使った招きに応じて、霧の中から現れた黒い影。


黒い影に、老人が言っている。


「では、この儂に永遠の命を──」

「ふむ。おやすいご用だ。今のまま永遠に生かしてやろう」

「今のまま? いや、待て」


老人は枯れ木のような自らの両手をながめて、「あぶない、あぶない」と笑った。

なにがおもしろいのか、とキリは思う。


「悪魔の前で、うかつな望みを口にするところだったわ」


老人は慎重に言葉を選んで、


「では、儂に若さをくれ。
永遠の、若さを──!」


なんだそれは。

キリは老人をにらみつける。


「それが望みか」

と、黒い影。

「そうだ」

と、得意そうに老人。


そんな望みのために、この魔法使いは──

そんな望みなど──


「この望みを叶えるために、儂はおまえを世界に招いたのだ、ロキ」


──知るものか!



にぶい音と一緒に、
エリゼ・ド・シムノンはうめいて、ぱったりとその場に倒れ伏した。



黒い来訪者が、目を丸くした。