キリと悪魔の千年回廊

いっそ老人のもとを逃げ出して別の魔法使いに弟子にしてもらおうかとセイが提案したこともあったが、キリはそれだけはできないと言って止めた。

魔法で操られているときにかいま見える老人の実力は、
キリに、シムノンという魔法使いの力の恐ろしさをいやというほど思い知らせるものだった。

キリの中に流れこんできた毒の魔法使いの頭の中身には、ありとあらゆる毒の魔法がつまっていて、

中には、人間を殺さずに生かしたまま、一ヶ月ものたうち回らせて苦しめるような魔法が数多く存在していた。


老人を夢中にさせていることにとって、二人の子供はどうやらまことに重要らしいと、キリもセイも気づいていた。

老人が二人を殺してしまうことはないように思われたが、

逃げだそうとして老人を本当に本気で怒らせてしまえば、この冷酷な魔法使いはためらうことなく、生かしたまま地獄の苦しみを味わわせる魔法を二人にかけるだろう。

どんな仕打ちを受けることになるかは、想像するのもいやだった。


二人は常に老人の顔色をうかがっておびえながら、

とにかく老人がやろうとしている「なにか」が達成されてしまいさえすれば、彼から解放され、魔法を学ぶことができるにちがいないと考えてひたすらに耐えた。


いつかきっと、その日がくると信じて待った。


どんなにつらいことがあっても、お互いがいればがまんできた。


「かなしい顔をしないで、キリ」

と、セイはいつもキリを抱きしめて、キリの頭をなでてくれた。

「ぼくが、ずうっときみを守ってあげる。
ぜったいにぜったいに守ってあげる」

かたい決意のにじむ声でセイは言って、
不思議そうに彼の顔を見たキリの瞳の中で、やせこけた青白い顔を赤くした。

「だって、ぼくのほうが、ちょっとお兄さんだから」

と、視線をそらしながら照れたように言う少年が、キリに対して抱くようになっていた少し背伸びした淡雪のような恋心を、

結局、最後まで彼女が知ることはなかった。



キリにとってセイは、
世界でたった一人だけの、大事な大事な友達だった。

セイだけが、

いつもキリにやさしくて、
いつもキリのそばにいる、

この世で一番大切な友達だった。




それなのに──






「なんでころしたの!」と、キリはわめいた。


白い、白い、霧の晩。


「なんでよ!」

魔法使いに操られるがままに、
あらがうすべもなく、彼の胸を貫きとおした──その赤いナイフを投げすてて、


不吉にまがまがしい紫色のあかりの中で、

血にぬれて横たわるセイを、キリは見下ろしている。