キリと悪魔の千年回廊

そんな子供たちを、エスメラルダは世界中から集めてくるのだ。

家族に大金を渡して。

あるいは道ばたでのたれ死にしかかっているところを。



幼くしてエスメラルダに連れてこられた子供には、帰るべき幸福な「家」などなかった──。




温かな家族はなく、

同じ仲間である魔法使いの老人は別のことに必死で、彼女につらく当たる。


世界中でひとりぼっちのような気分で、


彼女のたった一人の心の支えは、
彼女とともにシムノンにひきとられて、同じ運命を強いられていた少年だけだった。


まともに食事を与えられていないせいで、
彼女と同じように青白い顔をして、
彼女と同じようにがりがりのやせっぽっちの少年だった。

「きみはどうしてここに連れてこられたの?」

初めて会ったとき少年は、彼女にそんなふうに話しかけてきた。

「めずらしい『霧』の魔法使いだからなんだって」

しょんぼりと、彼女は答えた。

幼心にも、
「霧」というのが、みんなが怖がるよくないものだということはわかっていた。

「じゃあ、ぼくとおんなじだ」

少年はうれしそうに言った。

「おんなじ?」

「ぼくも、めずらしい『生命』の魔法使いだから、連れてこられたんだって」

「ふうん」

生命というものがピンとこなくて、彼女は適当に相づちを打った。

「生命っていいもの?」

「どうかなあ」

少年はボサボサの頭をかたむけて、すこうし考えるそぶりを見せて、

「あんまりよくないものみたい」

と言った。

「そうなの?」

彼女は、ちょっとだけ身を乗り出した。

「ミレイってひとが、『霧と生命は特に危険な魔法使いだ』って、あのクソジジイに言ってるのを聞いた」

少年が、老人のことを「クソジジイ」と呼んだので、彼女はうれしくなって笑った。

「わたしとおんなじ」

「ね、おんなじ」

少年も笑った。

「なまえ、なに?」

そう聞かれて彼女は首を横に振った。

「わかんない」

「なまえ、ないの?」

「そっちは?」

「……わかんない」


空中都市に連れられて来たとき、
ミレイという白い魔法使いに何かをされた。

何かを奪われた。

それから、
その場にいた子供たちはみな、自分の名前も、家族のことも思い出せなくなっていた。


それはつらい記憶を思い出さないための、ミレイという魔法使いの優しさでもあった。


代わりに、頭の中を魔法でいじくられて、子供たちはエスメラルダの標準語であるリンガー・ノブリスで会話できるようになっていた。


「そのうち、オズかオズマがなまえになるっていわれた」

「そんななまえ、いやだよ」

「じゃあ、ぼくがなまえをつけてあげる」