キリと悪魔の千年回廊

老人は何かに夢中になっていて、
情熱のすべてをそれに注ぎこんでいて、
彼女に愛情を与えてくれることはなかった。

虐待に近いあつかいを受けて、
泣いて過ごす日々が半年も続いたある日、


もう魔法使いになんかならなくていい、

おうちに帰りたい、帰してと懇願した幼い彼女にシムノンは、


「なにも知らずに、ばかなガキだね。
お前は親から高額でエスメラルダに売られた子供なんだよ。帰る家なんかありゃしない」


──と、


子供にとってはあまりに受け入れがたく、
あまりに過酷な真実を、

なんの配慮もなく、
容赦のない言葉で、
包みかくさずに告げて──あざわらった。



その瞬間に、心の何かがこわれてしまったのか、

その日から彼女はどんな仕打ちを受けても、涙の一滴もこぼれなくなってしまった。



エスメラルダという国が、

彼女たちのように変わった属性や強い魔力を持つ子供を世界中からたびたび集めてきては、オズの候補や魔法使いとして育てていることを彼女が知ったのは、これも後になってからのことだ。

そんな子供たちが、ムリヤリにさらわれてくるわけではないということも。


魔法使いとして生まれた者は、多くの場合もてあまされる。

魔法の才覚というものが、親から子へと血によって受け継がれるものではないからだ。

魔法使いの家族は、
魔法使いではないことが多く、
魔法使いとしての片鱗を幼くして見せ始めた子供に対する理解が、家族から得られることは少ない。


どういう人間が魔法使いとなるのか?


それは長く謎のままであったが、エスメラルダの魔法使いたちは長年の研究によって、ある一つの結論に行き着いた。


魔法使いの才能を持つ人間たちは、

血統も、
容姿も、
体格も、
生まれた土地も、
身分も、

何一つ共通項はなくばらばらである。


しかし、ただ一つだけ、

「性格面」において、

全員に共通する、明白な特徴が存在していた。


それは「魔法」というものの本質に深く関わる特徴であるとも言え、

現在では、
この特徴こそが魔法使いとなる資質なのだと、エスメラルダでは考えられている。


事実、

普通の子供を「その特徴を持つように」育てたところ、エスメラルダは人工的に魔法使いを育てることにも成功した。


それは、
どこまでも「人」らしい性質でありながら、
「人間」としてはおそろしい欠陥でもあった。


支配者階級層においてのみ、うまく機能する可能性を秘めてはいたものの、

この性質のために、
魔法使いは地上の国の共同体の中になじむことが難しく、嫌われ、つまはじきにされることがままあり、

さして裕福でもない多くの家族では、
当然のように、魔法使いに生まれた者は「手に負えない」と間引きの対象になった。