キリと悪魔の千年回廊

またしても、彼自身の属性がシムノンの足を引っぱった。

よりにもよって、こんな肝心なところで!


もはや残された時間はないというのに。

目の前に希望の扉があるというのに。


今度こそ半狂乱になりかかったシムノンに、

まるで運命のように、扉を開くための最後の鍵となる僥倖(ぎょうこう)が訪れた。





「月白のミレイが、次代のオズ継承者となる子供を見つけてきた」

そのうわさがさざなみのようにエスメラルダに広がったのは、まさに絶妙のタイミングといってよかった。


「なんでも、中の一人は千年に一人の『霧』の属性を持った子供だそうだ──」


そうささやき交わす魔法使いたちの声を聞いたとき、思わずシムノンは笑い出さずにはおれなかった。


ヴェズルングと同じ、霧の属性の人間!

確実だ。

霧の属性がどういうものかなどシムノンも知らなかったが、なにしろ同じ属性を持つヴェズルングが行った召還魔法なのだ。

もっとも確実な手段だ。

彼がその子供を手に入れることさえできれば、確実に黒い本の魔法は発動する。


すべての運命は、彼に味方している。

もはやそうとしか考えられなかった。





シムノンはただちに、
オズ継承の儀式まで、その候補の子供を弟子として育てたいと議会で自ら名乗り出た。

誰も、彼の目的を思いうかべることのできた者はいなかった。

笑えるほどすんなりと、彼の思い通りに事は運んだ。


ある思惑があって、
シムノンは目的の霧の属性の子供ともう一人、別のオズ継承候補の子供を弟子として引き取り──


もちろん、彼には弟子として魔法を教えるつもりはさらさらなかった。


魔法使いは、言葉を直接他人の頭の中に送って会話をすることができるものだが、

さらに齢を重ねた魔法使いは、他人の口を通して自らの言葉を語ったり、他人の行動を思うままに操ることも可能になる。


エスメラルダで最も優れた魔法使いの一人であった彼は、

一年の時間を費やして、

霧の属性の子供を己の操り人形にして──霧の属性の子供を通して自らの魔法を使えるようにしたのだった。


準備はすべて整った。

召還の儀式を行うのは、一年でもっとも世界の外と中が通じやすくなる神秘の夜──

ニーベルングが霧に包まれる大ごもりの晩だ。



こうして、

召還の日までによけいなじゃまが入らないように、霧の属性の操り人形ともう一人の子供を連れて、彼はもはや何の用もなくなったエスメラルダを捨てて出奔した。



オズ候補の子供を二人もさらって、枢機卿が行方をくらませたのだ。

エスメラルダは大騒ぎとなり──


調査のためにシムノンの住居の中に立ち入った異端審問官は、二十年間にも及び彼がくり返したおぞましい魔王召還の儀式の膨大な痕跡を、はじめて発見したのである。