キリと悪魔の千年回廊

「地上の人が身を包むそのような衣か……我には特に必要ない」

ドラゴンは、キリと同レベルで非常識な返事をよこした。

「こっちにとっては必要なんだッ」

ラグナードは手にしたままの炎の剣を横に振ってわめいた。

「覚えておけ! 地上の人間は、人前では服を着るのが礼儀だ!」

「礼儀か」

少年はこっくりとうなずいた。

「それならば従わねばなるまいな」

大きく息をはき出すラグナードの前で、
キラキラと無数の氷の結晶のようなものが宙を舞って少年の体にまとわりつき、

雪のように真っ白な、ブーツとふわふわしたマントになって少年の体をすっぽりと覆い隠した。

「キリ、もうこっちを向いてもいいぞ」

ラグナードに言われて、キリがくるりと体の向きを反転させた。

「わあ、すごーい。それ、魔法で出したの? どうやったの?」

少年の格好を見てキリは目を輝かせた。

「雪で作った衣で覆ってみた」

「それ、雪なの?」

見た目のままだった。

「天の人の魔法で普通の服は作れないの?」

「物質の構築や変換は可能だが、よく知らないものはムリだ。
我は地上の人の衣など外観しか知らぬ」

だから材質がわからずに雪で形だけ作ったらしい。

厳めしい言葉遣いでしゃべる少年を、ラグナードとキリはしげしげと見つめて、


「「なんで少年の姿?」」


今度はぴったり同じ言葉を口にした。

二人がいろいろ間違っていると感じた点の二つめがこのことだった。


「なにかおかしいか?」

天の人はまたしても不思議そうに問い返した。

「訊くけど──ええと、ジークフリートって言ったっけ?
ジークフリートは何歳くらい?」

「四百歳と少しだ」

キリの質問に、ジークフリートと名乗った天の人はほぼ予想通りの答えを返してきた。

ドラゴンの寿命は、地上の人間よりはるかに長いと言われている。

具体的にどのくらい長いものなのかはキリにもわからなかったが、地上の魔法使いよりもはるかに大きな魔力を持つ彼らは、数百年の歳月を生きている存在だろうと容易に想像できる。

「四百歳って……地上の人間なら老人だよ」

「そんなに長生きする人間はいないがな」

キリとラグナードは口々に言った。

銀髪の少年の姿は、あまりにもこの天の人に似つかわしくないように思えた。