キリと悪魔の千年回廊

竜の青い瞳がキリに向く。

「たぶん、誇りを傷つけられたこの天の人が、こういう行動をとるってわかっててやったんだ……」

キリは近くまで歩いてきて立ち止まり、
大地をぬらす金の血と、地に伏した天空の魔法使いをじっと見つめて考えこんだ。

言われて、
ラグナードは竜に剣を突きつけたまま、氷漬けにされた町並みを見渡した。

キリの言うとおりだった。

キリが無関係ならば、
彼女ではない何者かが、このドラゴンをパイロープの大地に落としたということになる。

「いったい誰が……」

ラグナードは黄金の血にまみれた生き物に視線をもどす。

倒れ伏してなお、その白い体は仰がねばならぬほど巨大だった。


こんな化け物に、何者の魔法の攻撃が通用するというのか──。


キリはしばらく宙をにらむようにしてから口を開いて、

「もしも、在野の魔法使いが見つからなければ──ラグナードはどうしてた?」

と、炎の剣をかまえたままのラグナードに言った。


「まさか──」

彼女の言わんとすることを読み取って、ラグナードは声を上げた。

「──エスメラルダか!?」

もしもキリに出会うことができずに帰国することになっていたら、

この国はパイロープを放棄するか、
さもなくば、
世界中の叡智が結集する魔法の国の知恵を借りるかという選択を迫られていただろう。

国土の放棄など、それこそ最後の最後の最悪の選択だ。

どんなにエスメラルダの魔法使いが危険で、その手を借りることがためらわれるとしても、現実問題として、その最悪の結末を回避するには魔法教国に頼るほかない。


いや、ひょっとしたらすでに、

ラグナードの留守中に、王立議会はその決定を下してエスメラルダの魔法使いの誰かに助勢を頼んでいるという可能性すらあった。


「手に負えなくなったこの国が、エスメラルダを頼ってくることを見越して、武力介入するためにやったというのか……?」


エスメラルダに、国内の変事の解決を依頼した国はいくつかある。

中立を謳ってはいるものの、
そんな国に対してエスメラルダは、魔法使いたちの研究の場として国土の一部を提供させたり、鉱物資源の採掘権を譲渡させたりといった見返りを要求していた。


「可能性は、あると思う」

キリはうなずいた。

「エスメラルダになら、天の人を撃ち落とせる力を持った魔法使いも何人かいるし……」

「本当にそんな魔法使いがいるのか?」

ラグナードにとっては、にわかには信じられない話だった。