キリと悪魔の千年回廊

この剣は、四つ封印を解いただけでドラゴンの体を断ち切り致命傷を負わせた。

炎を上げる聖剣の刀身では、残り五つの宝玉と刻印とがかつてないほどにまぶしく光り輝いている。

九つの封印をすべて解いたら、何が起きるのか──


ラグナードは、とてつもない武器を手にして舞い上がる心を静めようと、何度も深呼吸をくり返した。


やがて、

白い化け物に間近まで近寄り、金色の血だまりを踏みしめてラグナードは足を止めた。


ぐうう、とうなりながら、竜が彼をにらみつける。

巨大な両翼は垂れ下がり、
強靱な尾も血の海の中にだらりと伸びきって、
大地に顎をつけたドラゴンにはもはや、目の前の小さな敵を一かみする力すらも残されていなかった。


『貴様は、この地の罪なき多くの民を苦しめ虐殺した』

荘厳な尖塔ほどもあるその首に狙いを定めて、ラグナードは竜の頭を切り落とすためにレーヴァンテインを振り上げた。

竜の首は、とても剣の一振りで切り落とせる太さではなく、地上に立っていては首の上に刃を届かせることすらできないほどだったが、

先刻見たこの剣の炎ならば、直接刃を当てる必要もなく巨大な首も焼き切ることができると踏んで、ラグナードは剣を握る手に力をこめる。


彼の意志そのままに、
刃渡りを大きくしのいで深紅の炎が吹き上がり、灼熱の長大な刃を形作った。


『化け物め、報いを受けろ』

リンガー・レクスで静かにそう告げて、紫色の瞳は鋼鉄のように冷徹にドラゴンを映した。

『おのれ──この屈辱、死しても忘れぬ……!
呪ってやるぞ、ガルナティスの王子!』

竜が、牙をかみ鳴らして恨みの声を発した。

『我を殺すがいい! だが貴様にも、この国にも、永劫に続く呪いをかけてやる──』

死の間際に放たれた言葉は、たとえ魔法使いではない普通の人間であったとしても、災いの力となって対象者に降りかかる。

天空の魔法使いのいまわの際の呪いが持つ力となればいかほどのものか──


想像するだに恐ろしい内容にも、しかしラグナードは何の躊躇も示さなかった。

『貴様に命を奪われたガルナティスの民の怒りを知れ!』

言い放ち、かかげた火炎の刃を振り下ろす。

炎が、純白の竜の首を切り裂く──



──せつな、



「待って! ラグナード」



キリの上げた悲鳴が、ラグナードの動きを止めた。



ちりちりと、白い羽毛をレーヴァンテインの炎が焦がす。

「なぜ止める、キリ……!?」

今まさにドラゴンの首を切り落とさんとする刃を止めて、白い首にあてがったまま、
ラグナードは、彼を制止したキリを目だけ動かして見た。

「よく考えて!」

キリが、ラグナードと竜にかけよりながら言った。

「この天の人の話が本当なら、この国の上空で天の人を撃ち落とした魔法使いがいるってことだよ」