それに一瞬目を見開いた岡崎先生だったがすぐに眼鏡を直して元の優しい顔に戻った。
そして言った。
「座りましょう。ね?」
そのやさしい声に、涙がまた滲んでくる。
「僕は無責任にこんなことを言っているわけではないんです。だから、僕の話を聞いてください」
笑顔でそう言った彼の雰囲気が樹と少しだけかぶったから、あたしはドキッとした。
何もかも受け入れてくれそうな雰囲気。
あたしの今一番会いたくない人の雰囲気だったが、あたしの体はあの雰囲気には弱い。
体が勝手に座ってしまった。
それにまた岡崎先生は優しく微笑む。
そして母のカルテと思われる紙や資料をすべて脇に追いやり、まっすぐあたしを見つめた。
「安藤さんはね、毎回僕に言うんです。“佳奈には迷惑をかけたくないんです”って」
どの口がそんなことを言うんだ。迷惑なんてかけまくりのくせに。
「あとね、“あの子の前に立つとどうしても憎しみを思い出すの。確かに始めは憎かった。今はもう憎みたくないのに、体が、口が勝手に動くの”って言うんです」


