あたしはただイラついただけだった。


今まであんな風に言われたことが無かったから。


「……くそっ、何でだよ」


何で涙なんか出るんだよ。あたしは、樹に怒ってあそこを出てきたんだ。


もうあいつは関係ない人なんだ。






それなのに、胸が苦しい。


本当は樹が心配だ。


あんなに苦しそうにしていたんだから。


でもあたしの性格が帰りたい気持ちを邪魔する。





「……帰れないよ、いまさら」


あんだけ啖呵をきって出てきたんだ。


あたしはもうあそこに帰れない。




だったら、あたしの帰る場所はどこ?


あたしはどこに帰ればいいの?


家に帰ればどうせ言い合いだ。


生まなきゃよかった、といわれ、傷ついているのはあたしのはずなのに、一番傷ついている顔をするのは母だ。


そんな家に帰りたいとは思わないし、あそこを家だと認めたくもない。


しかし荷物も何もないあたしは、一番に“家”に帰る以外の選択肢は無かった。