Side 樹
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俺は頭をよぎる不安に気付かないフリをして前を走る“客”を一生懸命追い掛けていた。
俺の頭をよぎるのは店を出るときに見た安藤の顔。
悲しそうな顔をしていた。
ついてくることを許可してもよかったのに、俺は見栄を張った。
始めは気まぐれだった。
安藤を拾ったのは。
でも安藤は俺にいろんな顔を見せてくれるようになった。
楽しそうに笑うところも最近はよく見る。
文句を言いながらも書庫のかたづけも楽しそうにやっていて、終わりが近づいていた。
――もうそろそろ潮時か
書庫の片付けがおわる頃には、安藤は店にはいないだろう。
俺の体がもたないのは俺自身が一番よく分かっている。
思ったより早いけど。
そんなことを考えていたら視界に白く大きな建物が目に入ってきた。
病院だ――
俺は頭に浮かぶ不安と、悲しそうな顔をしていた安藤を頭の隅に追いやった。
無理矢理。