あたしはその緊迫した雰囲気を察して部屋を出ようとしたが、樹が目線でそれを制止した。



居てもいいということなのだろうか?


「とにかく詳しいことを聞かせてください」


いつもの樹とは違った声と視線に、息苦しさを覚える。






「弟が数時間前に事故にあったんです……」


精一杯普通に話そうとしているのが伝わってくる。


「私は近くにいなかったので詳しい状況は分かりません」


樹が無言で頷いている。


「病院に運ばれて、治療を受けたんですが、頭を強く打っているらしくて、一日もつかどうか……と言われたんです。だから、急いでお願いします」


姉というその人は、とても切羽詰まっていた。


「受けますよ。その依頼」


「では!「ただし」


笑顔になり、立ち上がりかけた彼女の言葉に、冷静で冷たい樹の声が被った。


「報酬は高いですよ」


は?報酬?


「樹、今はそれどころじゃ……」


「安藤は黙って」


「……」


別に怒鳴られたわけじゃないのにあたしは後に言葉を続けることができなかった。


「私に出来ることなら何でもします。だから弟をっ……」