その人が来たのは久しぶりにあたしが書庫にいない日だった。


書庫にいるのもあきて、どうせ客なんて来ないだろうとたかをくくって、樹について店にでていた日だった。


バァァァン


大きな音をたてて、店のドアが開かれ、そこからいきを切らした女性があらわれた。


「っ、はぁはぁ、助けて!」


大きな声で言った彼女に、反応できたのはあたしではなく、樹だった。


「詳しくお願いします」


樹の真剣な声に少しだけ冷静さを取り戻したのか、女性は息を整えて樹の前のソファーに座った。


「……いきなりすいません」


丁寧に頭を下げた女性に、冷酷な樹の声が響く。


「そんな挨拶いらないから早く要件を」


女性の緊迫した様子から、ことの重大さをなんとなく察知したあたしは店から出ようとした。


「弟を助けてください!」


店を出る前にあたしの耳に届いた内容は、とてつもなく心に響くものだった。


「ただ一人の、大事な家族なんです……、お願い、助けて……」



どんどん小さくなっていく声に、あたしは思わず女性を振り返った。


彼女は泣きそうな顔で、涙を堪えていた。