そして樹はあたしを呼ぶ。
「手伝いしてやって」
「うん……」
あたしはただ頷くことしかできない。
「クッキー。ありがとうございました。美味しかったです」
小さくて、鈴を転がしたような可愛い声が聞こえた。
「え?」
「クッキー美味しかったです」
お姉さんはあたしにそう言ってほほえんだ。
その顔は少しあどけない。
「……あぁ、ありがとうございます。また作ったのでよかったら食べてください」
あたしは部屋の脇に置いてある皿を指差した。
それを見たお姉さんがうれしそうに笑った。
その顔は“作って良かった”と思わせるには十分過ぎるものだった。
お姉さんの背中には前より薄くなった牡丹の花。
この状態のものを初めて見ていたら牡丹だとは分からないかもしれない。
それくらいに薄くはなっていた。
「……では、失礼します」
お姉さんがうつぶせに寝転がったのを確認した後、あたしは樹を呼び部屋を出た。


