「この肉うまそう」
「却下」
「何でっ!」
「高いから」
「俺が出すのに……」
お金を出すのは樹だが、管理をしているのはあたしだ!とか言ってみる。
「今日くらいはいいじゃん」
何が“今日くらいは”だ。
別に今日は特別な日ではない。
「お金の心配はいらないからこの肉買おう?」
「かわいい……………わけがない」
「ちぇっ」
樹が可愛い感じでいっても全く可愛くなかった。
「だいたいあたしの料理は食材を選ばないの」
自信はあった。
樹をうまいと唸らせる自信は。
「……安藤がそこまで言うならいいけど」
樹はあきらめたのか、高い肉の横にある安い肉をかごに放り込んだ。
「野菜のコーナーいくよ」
それからの樹はあたしに口答えもせず、黙ってついてきた。