どんなに嫌なことがあっても時間は進んでいく。
あたしの気分は落ち込む暇もない。
この主人、樹のせいで。
「今日の夕飯何がいい?」
「なんでもいい」
「……」
それが一番困るんだけど……。
「せめて肉か魚か」
「肉」
その質問には勢い良く答えてくれたが……。
「肉料理かぁ」
いっぱいあるわっ!
「特製とんかつ、ハンバーグ、肉じゃが、どれがいい?」
あたしは思いついた順に料理名を言っていく。
「特製とんかつ」
樹はうれしそうにこちらを振り向いた。
「はいよ」
あたしは今晩のメインが決まったので、付け合わせについて考えながら歩いていた。
あたしと樹の間には会話はない。
なのに、よくわからない心地よさがある。
無理に話題を振らなくてもいい。無理に笑わなくていい。
樹の隣はいつのまにか、あたしが一番あたしらしくいられる場所になっていた。
不思議だ。
樹と一緒にいるようになったのは2週間ほどしかたっていないのに。
時間なんて関係ないんだなぁ、って思った。