薬師 ―君の傷―




昭和のような町並みを歩くとなんとなく懐かしいような気がする。昭和だった頃、あたしは生まれてないのに。


ただボーっと歩いていたら本来の目的を忘れそうになる。


「……もやもや」


自分の気持ちを素直に声に出してみた。


「何がもやもやなの?」


「うわぁ!」


突然後ろから聞こえてきた声に本気でびっくりした。


「ははっ、驚かせちゃったね」


かなり楽しそうに笑っているのは蓮だ。


いまだにあたしの心臓はドキドキと激しく動いている。


「久しぶりだね。書庫は片付けはうまくいってる?」


「まぁ、樹と蓮がいない方が早い」


「ひどいなぁ」


すねたように頬を膨らませた蓮。


――くそぅ、かわいい


「散歩?」


「うん」


「ご一緒させてもらってもいいかな?」


「うん」


なんの迷いもなく頷いたが、後から後悔した。


“もやもや”の正体を聞かれるのが目に見えていたから。


言うことにはあまり抵抗はない。


ただ、あたしは言葉にできないのだ。


誰かに何かを伝えることに慣れていないから。