あの日から樹はあたしを治療中に呼ぶことが減っていった。


あの牡丹を背中に背負ったお姉さんを治療した日から。


「最近くずはあたしを呼ばないよね」


おかげであんなに汚なかった書庫はどんどん綺麗に整理整頓されていく。


「まぁ安藤は書庫片付け係だからな」


「いつ決まったんだよ」


「今」


「おい!」


あはは、と樹は笑いながらまた店に戻っていった。


あたしは最近いる時間が長くなってきた書庫でひとりぼっちにされた。


「うまいことはぐらかされたような……?」


そんな気がしないでもないが、樹に直接聞くことは出来なかった。


人との距離感の取り方がよくわからないからだ。


どこまで聞いてもよくて、どこから聞いたら駄目なのか。


その境界線がわからない。


だから人とのつきあいに臆病になって、境界線から遠い所までしか行けないんだ。


「……散歩でも行ってこよう」


ぐだぐだと悩んでいても仕方ない。


すっきりと自分の頭を整理するためにも、散歩に行こう。


思い立ったらすぐ行動。


自分のことならこんなに行動できるのに。


あー、臆病。