書庫から出て、樹の部屋に行けば、疲れたのかソファーに座ってぐったりしている。


「大丈夫?」


「……あぁ」


全然大丈夫そうじゃない。


でも彼の雰囲気は、深く追求されることを拒んでいた。


「彼女、綺麗だったね」


「……あぁ」


さっきと同じ返事。

樹はこっちを見てくれない。


「完全には消えなかった……。だから、しばらくかかる」


彼女が苦しみから解放されるにはもう少し時間がかかるようだ。


そして、多分。


そのたびに樹はこうやって疲れるんだ。


ついでにあたしはきっと、また何もできない。


「よかったらまたクッキー作ってくれよ。彼女もおいしいって言ってたぞ」


少し楽になったのか、樹にやわらかい笑顔がちょっとだけ戻ってきた。


「うん。そんなことでよかったらいつでも。彼女がこない日でも、樹のためだけにでも作ってあげるよ」


なんとなく、彼が消えてしまいそうで、つい手をのばしそうになった。


「それはありがたいな」


静かな冗談って笑えない。


笑えないし、実現できないような気にさせる。


絶対クッキーを作らなきゃ。