樹はやはり不器用だった。
生地を混ぜさせるとこぼす。
材料を計ると間違う。
何をさせても邪魔なだけなので、部屋でおとなしくしてもらうことにした。
「安藤は手際いいよねー」
なりたくてなったわけじゃないけどね。
「いい嫁になれるよ」
「黙ってろ」
「はい」
樹を黙らせた後、あたしは余熱で温めてあったオーブンに型抜きした生地を入れた。
「おー、これがクッキーになるのか……」
オーブンの前に張りついて回りもしない天板を見守り続ける樹。
「安藤が作るんだから絶対うまいだろうなぁ」
まただ。
また彼はさり気なくあたしを喜ばせる言葉を放つ。
「当たり前でしょ」
またあたしは素直になれないのだが。
まるであたしの心を温めていくように。
彼の言葉はあたしの心の奥に届く。
そうやって穏やかな時間は過ぎ去っていく――