樹が優しく笑いながら美樹ちゃんに問い掛けていた。
――そんな顔もできるんだ
いつも無表情で、お馬鹿なイメージしかなかったが、優しい一面もあるようだ。
「うん。佳奈ちゃんがお話してくれたから」
あたしの会話なんてたいしたことない。
樹がうまいだけだ。
「そっか……。お話できてよかったな」
樹はまた少し笑って美樹ちゃんの頭を優しく撫でた。
来た時とは反対に、出ていくときは笑顔で美樹ちゃんは帰っていった。
「……小学生は素直だね」
「まぁ、安藤に比べたらな」
じゃっかんイラっときたが、言い返せなかった。
あたしは素直じゃない。
正直に何かを言ったって母親はあたしを傷つける言葉を平気で返してくる。
素直さを無くしたのは自分を守るためだ。
自分の心が無くなくならないように。
誰も守ってくれる人はいないのだから、自分のことは自分で守るしかないのだ。
「あたしはあんな風に素直に生きたい」
「自分次第だろ」
無責任じゃない投げ遣りな言葉が心に染みた。
樹はあたしの話をちゃんと聞いてくれている。


