「さっきの、晶っていう小学生はなぜか呼びすてだけどね」
そういえばさっきの少年は樹のことを名前で呼んでいた。
「ふーん」
「どうでもよさそうだね」
「うん」
樹の名前の呼び方なんてどうでもいい。
「っあ」
「どうしたの?」
しばらく黙って本を拭いていた佳奈が突然大きな声を出した。
「あたしも樹って呼んだけど、何も言われなかった」
「あー、それ多分気付いてないだけだよ」
「は?」
「あいつが名前を呼ばれたくない理由はさっき言ったけど、俺の考えだと違う理由があると思うんだ」
あの恋愛小説の主人公みたいだってやつのほかに?
首を傾げた佳奈に蓮は苦笑いをかえした。
「できれば違う名前で呼んであげてよ」
そういってあたしからの質問を拒絶するように、本を拭く作業に戻った蓮。
――違った名前かぁ
そこで思い出したのは母親との唯一の思い出の場所。
――そういえば同じ漢字だったなぁ
薬師と書いて彼は“くすし”と読む。
しかし薬師と書いて“くずし”と読む地名があった。
懐かしい、唯一の思い出の場所の名前。


