薬師 ―君の傷―




書庫に入る前にマスクをしたが、くしゃみが出た。


「掃除したばっかりだからよけいね……」


どれだけ綺麗に掃除をしても、本を大量に動かせば埃は舞ってしまう。


さっきの分がまだ舞っているのだろう。


「掃除してもこうなるし、佳奈ちゃんも本拭くの手伝って!」


「はいよ」


佳奈は蓮に渡されたスポンジを手に取った。


「濡らすと本によくないからそのまんまでよろしく」


「うん」


これが本の拭き方として正しいのかは知らない。


でも、本を大切にしているのはよくわかった。






「それにしてもあいつ、樹っていうんだね」


ふと思い出した事を口にしてみた。


樹はあたしに初めて会った時、名前を言わなかった。


自分の紹介は“薬師だ”くらいだったような気がする。


「あいつ、名前言うの恥ずかしいんだと」


「はぁ?」


「樹ってなんか古い恋愛小説の主人公みたいだってさ」


なんともくだらない理由だな。


「俺もはじめは樹って呼ぶなって毎日言われた」


それでも樹で押し切ったけどね、と笑った蓮は多分ドSだ。