「いつきー!」


「さんをつけろ」


店に勢いよく飛び込んできたのは、わんぱく小学生。


頬には絆創膏が2つ。

鼻の頭にも1つ。


……ずいぶんわんぱくなお客さんだ。


「今日はどうした?」


「喧嘩した!転んだ!」


「また喧嘩か。小学生が何をやるんだか……」


樹が呆れている。


それにこの慣れた態度。


この小学生はどうやら常連のようだ。


「怪我したとこは?」


「膝!」


「出せー」


やる気のない樹の声に少年は素直に従う。


ズボンをまくり、右の膝を差し出してきた。


「……お前、これくらいなら自分でなんとかしろよ」


確かに、見たところただの擦り傷だ。


これくらいならほっといても治る。


「樹に治してもらうと傷痕残らないんだもん」


え?


「お前は女子か!男なら傷痕くらい残しとけ」


「とにかく治してよー」


「はいはい」


目の前で繰り広げられた会話に、佳奈は若干、付いていけていなかった。


傷痕が残らない。


小さな傷なら残らない。


でもこの少年の傷は浅いとはいえ、広範囲の擦り傷だった。