全部自分でしなきゃならなかった。生きるために。


母さんが与えてくれたのはお金だけ。


二人で住んでいるのにあたしは昔から一人暮らしのようだった。


だからあたしは家事が得意だ。得意にならざるをえかった。


「鍋は棚の上だから」


そういわれて、棚を眺めてみた。


多分届かない。


試しに手を伸ばしてみたけどやっぱり届かない。


あたしはまわりを見渡した。何か上れる台を探して。

部屋を見渡してみたけど、台になりそうなものはない。


すると、キョロキョロしているあたしに気が付いた彼が呆れたように声をかけてきた。


「届かないなら言ってくれればいいのに」


勝手に人の部屋のソファに座りかけていた彼は、めんどくさそうに立ち上がり、あたしの手のギリギリ届かない棚から鍋を出してくれた。


「……ありがとう」


いつも1人でどうにかしていたたしは、誰かに助けを求める方法を知らなかった。


「頼ることを知らない、か」


彼の呟きはあたしには小さすぎて聞こえなかった。


そしてあたしは取ってもらった鍋を不思議そうに見つめることしかできなかった。