大きな荷物を持ったままあたしはあの鳥居のある場所まで急いだ。
足を止めると泣きそうになるから。
帰れないわけでもないのに、なぜか悲しかった。
「おかえり」
薬師のその声に、安心したのはくやしいから絶対に言ってやらない。
はじめて、“おかえり”と言われたことも。
「安藤の部屋は二階だから。階段のぼって一番手前の右手の部屋」
「オッケー」
あたしは彼が指を差した階段を上った。
荷物を持ってくれる優しさくらい持ち合わせてろ!なんて思いながら。
「うはっ」
ついた部屋に、あたしは驚きを隠せなかった。
彼が言ったとおり、生活に必要なものはすべて揃っている。
キッチン、ベッド、お風呂、トイレ。
ただの部屋のはずなのに、まるでマンションの一室のようだった。
テレビはないが、もともと見ないので、あたしには必要ない。


