そして私は自然と出てくる涙を拭うこともせず、ベッドの横にある椅子に座ることもせず、ただただ涙を流した。




あぁ、何も無くさなくていいんだ。そう思った。



今まで私にはいろんなものが欠如していた。



愛情も、父親も、家族も、友達も、感情も。母親さえも。



周りの人が当たり前のように与えられているものを私は与えられていなかった。
でも、別にそれでいいと思ってた。


全部受け入れてしまえばいいのだ。全部慣れてしまえばいいのだ。そう言い聞かせて私は生きてきた。



今までずっと。



でも樹に会ってずべてが変わった。




樹が父親になってくれたわけでもない。愛情をくれたわけでもない。家族になってくれたわけでもない。母親になってくれたわけでもない。



でも樹はそばにいてくれた。





それだけで十分だった。




樹は私に、人に頼ることを教えてくれた。



今まで自分でできることは自分でやってきたし、自分じゃできないことは諦めるか、なにか違う方法でやってきた。でも、樹は人に頼ってもいいんだと、教えてくれた。



それは私にとってすごく大きなことで……。









行かなきゃ。







自然にそう思った。



ここでゆっくりしてるのは何か違うと思った。
後で対価のことについて聞くつもりだった。



でも、いてもたってもいられなくなって、私は母さんを残して病室を去った。