side加奈




「遅いな」


樹が母さんの病室に入ってからすでに30分以上がたっていた。


今まで樹が治療してきたのは軽いけがから重いけがまで様々だったが、こんなに時間がかかったことはない……ような気がする。





「遅くなった」


「ほんとに!」


すこし顔色の悪い樹が私に声をかけたのは遅いとつぶやいてからさらに数分がたっていた。


「どうだった?樹顔色悪いけど大丈夫?」


「まぁそれなりに大きいものを治したんだ、疲れもする。それより行って来いよ」


樹はドカリと私の横に座った。


「治った……の?」


あふれ出てくるのは涙。


そんな私に樹は珍しく笑顔を見せてこう言う。


「俺を誰だと思ってるんだよ、さっさと行って来い。寝てると思うけどな」


その優しい笑顔に私は大きく頷いた。






樹の顔色の悪さはかなり気にかかったが、私はそれよりも母さんが気になった。
だから――。


「うん、いってくる、樹ありがとう。対価、あとで聞きに行くね」


涙をおおきく拭って、私は樹に背を向けた。











それが私が樹をみた最後だ。