side 樹



病室に入ってまずびっくりしたのは、ベッドで寝ているはずの人が目を覚ましていたことだ。


たしかに彼女は事故にあって今瀕死なわけではないのだから、目を覚ましていることだってあるはずなのに、俺はまったくその可能性を考えていなかった。




「……どちら様ですか?」


思ったよりもハッキリとした安藤にそっくりな声が、俺の耳に届いた。


「俺は……」


なんて言えばいいのか分からない。


「もしかして、佳奈のお友達?」


何も言わない俺に、彼女は不振がる様子も見せずに話し掛けてくる。


「あ、はい……」


まぁ間違いではないはずなねで頷いておく。


「そう……」


彼女は嬉しそうに顔を綻ばせた。


その顔を見た瞬間、俺はありえない事を口走ってしまった。


普段なら仕事にプライベートは持ち込まないのに、この時ばかりはいつの間にか言葉が口から漏れだしてしまったのだ。