大嫌いでも、あたしには母親であることには変わりない。
「あたしは知ってるの。母さんはあたしに“生まなきゃよかった”って言うたびに傷ついてて、どうしようもない 母親だけど、あたしが生活に苦労したことなんかないのだって……」
母さんが一生懸命働いてるからだ。
でもあたしの言葉は続かなかった。
涙で視界が滲んだ――。
「安藤は優しいな……」
樹は優しく笑った。
――これだ!
この顔が岡崎先生に似ているんだ。
あたしに安心をくれる表情だ。
「依頼、引き受けるよ。でもお代はきっちり貰うからな。しかも高いやつ」
その顔は真剣そのもので、あたしはふざけることもできず、ただ頷いた。
母さんを得る対価がすごく高いものだと、この時のあたしは知らなかった。


