香奈恵のお母さんが家を出てから、1週間が過ぎた。


職場の同僚と駆け落ちしたんだとか、大借金を踏み倒して逃げたんだとか、近所の人の中には、面白おかしく、噂をたてる人がいた。

まぁ、あたしがカミングアウトした時も父さんが実はよそで産ませた子なんだとか、こどもが死産だったので、どこぞの施設から、もらわれて来たんだとか、まことしやかに言われてたからね。


もうアホらしくって、お話にもなりゃしない。

人の不幸を笑っているような輩は、とっくの昔に相手にしてないけどね。



「凛子、これ………」


香奈恵が白い封筒を差し出した。


「何?」


「食費。今日、バイト代もらったから」


「また、何、水くさいこと言ってるのよ!母さんが受け取るわけないでしょ!」


「受け取ってもらえないんだったら、このまま、お世話になるわけにはいかないわ」


「父さんも母さんも香奈恵のこと実の娘のように思ってるのよ。こんなもの渡したら、2人ともガッカリするわよ」


「…………」