「おっ、実結ちゃんやん」

購買でお昼を買った帰りに、稲瀬くんに出くわした。

場所は購買のすぐ前。
実は稲瀬くんとはあまり関わりがないので、ちょっと、緊張する。

「奇遇やなぁ、ちょっと話さん?」

「…え!?」

そう言われて、私が何か答える前に腕を引っ張って人混みから脱出する。

稲瀬くん、お昼買いに来たんじゃ…?


手をひかれてる間、女の子たちに真っ青な顔で見られましたよ。…誤解ですっ!!



「ここらへんでいっか」

と連れてこられたのは中庭。
なんというか、強引だなぁ…。



「まぁ話ってゆうんは翔太のことやねんけど」

「…うん」

「なんか、あったんか…?」

「…え?」

翔太くんの話だろうとは思ってたけど、どうしてそんなこと聞くんだろう?

昨日私は先に帰っちゃったけど、それは用があるからって言ったし、翔太くんも疑ってる様子はなかったし…。


「翔太、実結ちゃんに嫌われたかもって落ち込んでてん」

「っ…なん、で」

「理由は聞いてないからわからん。またいつものネガティブ思考か、って思ったけどちゃうみたいやし」


なんで、翔太くんが落ち込むの?
昨日告白現場を目撃して、私はずっともやもやしてた。
でも、翔太くんは、いつもと変わらずにこにこしてたじゃない。


「…もしかして実結ちゃん、昨日翔太といた時もそんな顔してたんちゃう?」

「…え?」

「あいつ、自分のことは鈍いくせに回りには敏感やからな」

「私、そんなに翔太くんに勘違いされるような顔してたかな…」

「ちゃうって実結ちゃん。嫌そうな顔してるって言うよりは、悲しそうな、怒ってるような、そんな顔。」


翔太はやっぱり鈍感やから、嫌われたって思ったんやろな、っていう稲瀬くんの言葉に首を傾げた。

「俺から見たら、嫉妬してるような顔に見えるで。」

「なっ…!」