「稲瀬くんかっこいいー!」
「きゃー、高橋くんがんばってー!」
ウォーミングアップを済ませてちら、と男子のほうに目をやるとハンドボールのミニゲームをやるみたいで、女子達はいつの間にかコートの端に集まっていた。
バスケの練習を中断して男子のコートのほうへ行こうとする女子達を見て、山下先生も怒りを通り越して呆れているようだった。
しばらくして試合が始まったみたいで、女子達は稲瀬くんと翔太くんに釘付け。
さっきから悲鳴にも似た声援を2人におくっている。
「彼氏があんな人気者で、妬かへんの~?」
由奈が面白そうに聞いてくる。前までの私なら「なんで妬くの、好きでもないのに」って言っていたと思う。翔太くんの人気は今に始まったことじゃないし。
でも、なんでだろう。胸が、チクチクする。
「…実結?」
何も答えない私を見て不審に思ったのか、由奈が私の顔を心配そうに覗き込んでくる。
「ううん、何でもない。妬かない、よ。ねぇ、私達もちょっと見に行かない?」
そう言うと、行くか!と言って私の手を引っ張り人だかりの間を縫って前にでる。
見えてきた翔太くんに、思わず息を呑む。
「(か、っこいい…)」
ハンドボールのルールはよくわからないけど、翔太くんと稲瀬くんの連携プレイでどんどん点が入っていく。
ゴールを決めた後の翔太くんの蔓延の笑みに、また女の子たちから黄色い悲鳴があがる。
「ほら、おまえたち!!もういいだろう、練習に戻れ!」
やっと注意した山下先生の声に、女子達はしぶしぶ練習に戻っていく。
私も戻らなきゃ、と足を動かそうとする…が、動かない。
「実結?どうしたん、はよ練習戻ろ?」
頭ではわかっているのに、足が、体が、言うことを聞かない。こころなしかフラフラする。
ああ、昨日寝てないから、と昨日の自分を責めたときにはもう手遅れで。
「っ、実結!!」
由奈の慌てた声を最後に聞いて、私は意識を手放した。