大きくは無いが、立派な景観。そして利便さよりも可愛く見えることを重視して飾られている内装。それがこの『THE:CUTE』をはじめてみたときに思うようなことだ。飽くまでこれは一般人目線からのものであることを先に言っておこう。
 その店のレジスターの向こう側で、黒いジャージの人影がごそごそ動いている。
「んにゃら~!!やっはーー!!店長ーーー!!」
ドアを壊れんばかりの勢いで開き店内に何者かが侵入する。
「断ると言って…あぁ、アルバイト君か。」
 黒ジャージの人が体を起こし、侵入者に声をかける。侵入者は金髪ポニーテールにデカリボン。超重量級の髪のボリュームを誇っている。おそらくヘビー級。
「そーですよっ!今日は勧誘に来てなんかませんよっ!!」
「出来るならば一生勧誘に来て欲しくないのだが…」
 黒ジャージが体を侵入者に向ける。黒ジャージの長ズボン。黒いTシャツ。黒ジャージの上着。さらにフードと仮面。フル装備だ。
「あぁっ…!店長、そんなっ!いくら他の色と混ざり合いにくい黒コーデだかって…そこまでつれないと…萌える…(бзб)」
 侵入者はアルバイト君。そしてフル装備の不審者が店長だ。
「ばっ!!萌えるなんてっ…!!言うなよっ!」
 店長は可愛いと言われるのが嫌いなのだ。仮面をつけているのにもそれにつながる理由があるらしいが、今は言うべきときではない。
「そーゆー反応がまたっ…くぅぅぅぅーーー!!」
 言葉を飲み込むアルバイト君。言い過ぎると怒ってしまうという現実を知っているからだ。
「いいから手伝えアルバイト!今日は奴等も来るぞ!!」
焦って行動する店長。仮面で表情は見えないが、何かを恐れている感情を出している。
「は~い店長さん。ってかそんな嫌なら立ち入り禁止にしちゃったらどうなんですか?あの人たちのことー。」
「それは店としてダメだと思うから無理だ。私も出来ればそうしたいのだが…。」
 商品を整理しながら開店の準備を進めるとともに、『奴等』対策の話をする二人。しかし、そう。噂をすれば何とやら。『奴等』は来る。
「チョリーーーーーッスゥッ!」
「シャバドゥビヤッハーーーーーッ!!」
 再び店の入り口に大きなダメージを与えつつ、侵入者が現れる。
「来たか…。断る断る断る微塵も考える隙も無い断る何か買え断るドアの修理が月に一回とか大変なんだよ断る!!」
 神速のインパルスで反応した店長が、呪詛を一息で吐き出した。
「そのツンツン!!感じるわぁ!!」 
 『チョリッス』のくすんだ青い髪の女性が反応する。
「何を感じた!?」
「…ツンデレの…か・お・り♪」
「誰がデレるかァァァァッ!!」
 怒りの店長。表情は仮面で見えなくとも、声ですぐにわかる。ポーカーフェイスとか絶対に出来ない人だ。
「怒りのツッコミ?シャバドゥビ何でやねん?」
 意味不明のこのシャバドゥビ人間は、赤い髪をしている。テンションの変動が激しいのだ。それはもうゲリラ豪雨並み。かなりのレベル。
「お前は人類の発明した言語をしっかり扱えよ!!」
 息も切れ切れに叫ぶ店長。こういうときのためにこの店の防音設備は整っている。中で銃撃っても誰も気づかない。1人や2人は暗殺できる。
 お前ら殺すぞ?みたいな視線を店長は侵入者2人に送るが、この2人の回避スキルは目を見張るものがある。すべてを受け流している(無視してるだけ)。
「息切れ…貧弱…病弱………ブッ!!」
 青髪が倒れた。白いワンピースがふわりと踊る。興奮しすぎたようだ。
「フッ…軟弱者は放っておいて、話を進めようか?店長君。」
 赤髪が急にハードボイルドな雰囲気になる。
「断る。」
「つれないねぇ…ためしでも僕たちの…」
「嫌だ。」
 だんだん店長の言葉数が減ってきている。これは怒りの前兆!!と、察した金髪アルバイト君は店の奥へ避難する。
「君だって知っているはずだろう?このキューティー王国では、現在さまざまな派閥が争っている。『純粋可愛いの会』『ブサカワ教』『妹萌え団』『ツンデレ同盟』『S:M可愛ゆす共和隊』etc…。君はその中のどこかに属すべきなんだよ!!」
「それでもお前のとこだけは嫌だっ!!」
 熱弁を一瞬で灰燼と帰す店長。今、攻撃力はドンドン上昇している。
「いいじゃないか?私たち『キューティクル:オブ:グロテスク♪』に入ってくれよ!!」
「怖いのは嫌なのっ!!」
 店長はそういうのは苦手な人らしい。それにしても教の勧誘はしつこい。いつもより三倍以上この店の中にいる。
「ならば、私たちの『S:M可愛ゆす共和隊』に入らない?私はSもMもどっちもやれるわ!!」
 復活した青髪が、店長攻略作戦というインポッシブルな任務を開始した。
「そんな趣味は私は無い!!」
 またもや店長の攻撃力が増加していく。これはもう二次関数の増え方だ。
「こら!今私が勧誘してたんだぞ!!」
「店長は私の肉便●にするのよ!!」
 醜い争いが始まった。が、それもすぐに週末を迎えた。
「何も買わないなら出てけーーーーーーー!!」