「優羽〜。」
誰かが呼ぶ。
今日は中学の入学式。
小学生の時から友達の采明(あやめ)がクラス表の前でぴょんぴょんしてあたしに手招きをする。
采明の長い髪は少し短くなり、セミロングになっていた。
癖の掛かったウェーブの間に、来るときの道で引っ掛かったであろう、桜の花弁が見え隠れしていた。
「あっやめ〜!!!」
あたしは学年で一番大きいであろう地声にフルボリュームを付け加えて叫んだ。
「テンション高っ!!」
そう言う采明のテンションも高いが、多分あたしはテンションの高さも学年で一番だろう。
中学生活は静かに真面目に過ごそうと思うが、あたしにストッパーがあるワケもなく、“今日くらいは”と誰もが凝視するテンション。
きっと一緒にいる采明は恥ずかしいのだろう。
頬が桜色に染まる。
まぁ、落ち着いている采明にあたしと一緒のテンションで絡めと言う方が無理な話だ。
「ねぇ!クラス表発表されるよ!!」
采明のキラキラした眼の視線は外のスポーツストリートから見える家庭科室の窓。
「お!優羽じゃん。」
小学生の時の友達が次々と慣れない制服に袖を通しあたしの前に現れた。
いつの間にかあたしの前には人の群れが出来ていて、みんなクラス表に釘付けになっていた。
後ろでは政治の話だの夫の愚痴だの世間話をしてた親達の会話が、子供同士の自慢話に変わる。
あたしは自分の名前を探した。
「大沢…大…沢…。」
いた、1年3組33番。
覚えやす。
でもあたしは、この時からこの番号をずっと自慢していたりする。
あたしは自分のクラスと番号を確認してアイツの名前を探した。
伊坂 涼太。
小2の時から好きな初恋の相手。
アイツは…6組。
遠い……。
まぁいいかなんて。
卒業前に喧嘩して話してないけど少し期待なんかしちゃったりして。
自分が馬鹿馬鹿しいような感覚。