リズヴァーンは筆や硯を片付け、文をたたみ始めながら、穏やかに尋ねる。

「大事ないと考えた末の行動だとは、思わぬか?」

その声に、少年は、ぱっとリズヴァーンを振り返り、声を荒げた。

「身重の人間が、あんなに沢山の人が行き交う市へ行くなど、無謀でしかありません!何かあったら、どうするんですか!」

いきり立つ少年の大きな声を聞きながら、リズヴァーンは静かに席を立つ。

そして、たたんだ手紙を持ち、苦笑を湛えながら、金色の髪を持つ少年へと近づいた。

「その昔、私も同じことを、言ったことがある。」

傍にしゃがみこみながら、優しく言葉を紡ぐと、リズヴァーンを見上げる少年は驚いたように、青い目を見開く。

「え…?そうなんですか?」

「あぁ。聞き入れはされなかったが、無事、お前が生まれた。」

リズヴァーンは自分の遺伝子を引き継いだ少年の頭に、ポンと手を乗せ、その瞳を真っ直ぐに覗き込んだ。

大きな青い瞳を向けてくる息子に向かい、リズヴァーンは優しく声を出す。

「セヴィロス。安心しろとは言わぬ。だが、お前がそこまで気を張ることはない。」

「ですが、父上…。」

それでも納得きしきれない顔をするセヴィロスに、リズヴァーンが愉しそうに語る。

「それに、お前を身ごもっていた頃には、もっと危険なコトをしたこともあった。今からそれでは、身が持たぬ。」

「僕がお腹にいるのに、ですか!?」

「そうだ。聞くか?」

悪戯な瞳を向けるリズヴァーンに、セヴィロスが一瞬、押し黙る。

だが、冗談だと思ったのか、すぐに頬を膨らませ、リズヴァーンを上目遣いで睨み上げた。