滅多に「人」の中を歩かないリズヴァーンと一緒だと思うと、少しだけ心が弾む。

道の先から聞える子供の声も、微かに匂う人の家のおかずの香りも、鞍馬にいては感じることは出来ない。

それを寂しいとは、思わないけど。

(たまには、こういうのも、いいよね)

望美は暢気に、そんなコトを考えながら、歩いていた。

が、黙々と歩いていたリズヴァーンが、不意に、望美へと視線を向ける。

「――…とにかく、子を授かったのだ。おめでとう」

いきなり、人事のようにそんなコトを言われ、一瞬、望美はきょとんとする。

でも、すぐに、はにかむように笑んだ。

「先生も、おめでとうございます。これで、先生もパパになるんですね」

『パパ』の意味が通じるかどうかは、微妙だったけど。

「………うむ」

間をおいて返された返事に、望美は優しく微笑み、道の先を見て、目を眇める。

その先では、追いかけっこをしている子供たちが、角を曲がり、視界から消えていった。

「ま。いきなり子供が出来たって言われても、私だって実感はないですけどね」

すべてがいきなりすぎるのだから、実感などあるわけがない。

腹も膨らんではいないし、動きもしない。

おまけに、散々弁慶に遊ばれた後となれば、感動する気力すら残ってはいない。

「気持ちの悪さも、本当に悪阻なのかどうかも、よくわからないし」

望美はようやく落ち着いてきた心のもと、楽しそうに笑いながら、気軽に言い放つ。

なのに、リズヴァーンは至って真面目な顔で、口を開いた。

「だが、弁慶が言い切るのだ。間違いはあるまい」

「そうですけど。先生だって、思ってもみなかったでしょう?」

クスクスと笑いながら言えば、ほんの少しの間、リズヴァーンが口を噤んだ。

――…図星だったらしい。

「……驚いたのは、確かだ」

視線をそらせつつ呟く愛しい人に、望美は何気ない顔をして、呟く。

「ですよねぇ。さすがの私も、びっくりです」

小さく笑いながら望美は、そっと、リズヴァーンと手を繋ぐ。

あまり、人前で必要以上に触れることのない望美だ。

否。

人前でなくとも、リズヴァーンに触れられることで、恥ずかしさを感じてしまうほどなのだけど。

それでも、今は、不思議と触れていたくなった。

心細いんじゃなくて。

なんとなく、今、この人と繋がっていたいと、思った。

(――…先生との、子供かぁ)

いつか、そんな日が来るとは思っていたけど。

まさか、それが今日だとは、さっきのさっきまで、考えてもいなかった。

うれしいかと言われれば、ものすごくうれしいケド。

どうしていいか、わからないって言うのも、本当の気持ち。