賢い人の会話は、望美の気付かぬ間に、進んでいく。

「――…黒龍、か……」

「ええ。それに朔殿がいますから、望美さんも安心されるのでは?」

ニッコリ笑う弁慶はそう言い残して、扉を出て行った。

――…残ったのは、途方に暮れている「元白龍の神子」と、深く考え込む「鬼」だけになった。

ストンと、扉が閉まる音を聞いてから、真っ赤な顔をしていた望美がポツリと呟く。

「………とりあえず、いろんな意味で、白龍を呼び出していいですか?」

「やめておきなさい」

弁慶の背を見送ったリズヴァーンが、小さな息を吐き、口元から手を放した。

ゆっくりと、望美はリズヴァーンを振り仰ぐ。

でも、リズヴァーンは顔を背けているので、その視線が合うことはない。

それでも、望美は呟き続けた。

「でも。一度、よーーく話し合わないといけないと、思っていたんですよねぇ……」

「神に殴りこむような態度は感心しない」

「いくら神様でも、やっていいことと、悪いことがあるでしょう?」

「――…アレは、白龍なりの祝福なのだろう?受け止めてやりなさい」

冷静な声で諭そうとするリズヴァーンに、望美は大きくため息をついた。

(――…白龍に悪気がないのは、分かるけど)

花に包まれる祝福がうれしくなかったのかと、問われれば。

宴もふくめて、ものすごく楽しかったのは、否めないケド。

これで、すべてが終わったんだって。

みんなが八葉から、解放されたんだって、すっごくうれしかったんだけど。

……ケド。

それでも、さぁ。

今更、こういうことでした!とか、言われても、ものすご~っく困る。

あの日、赤ちゃんを作りました!って、みんなでお祝いをしてしまったようで。

秘め事のはずなのに、アレほどまでに、あけっぴろげに騒いでしまったと思うと。

――…ものすごく、いたたまれないっ!

(ってか、この話って、弁慶さんが、面白おかしく、みんなに吹聴して回るんだよね?)

先生が、一瞬にして固まったとか。

私が頭から火を吹くほど顔を真っ赤にして、呆けていたとか。

みんなに、それはもう楽しそうに、話してまわるんだよね?