「――…望美っ!」

リズヴァーンが慌ててしゃがみこんでくる。

でも、構うことなんて出来ないほど、望美の吐き気は止まらない。

しかも、胃は空っぽだから、出てくるものは胃液だけ。

それが苦しくて、苦しくて。

焼けるような喉の痛さと、つらさで、何度も吐きながら、望美の眦に涙が浮かんだ。

「……はぁっ!はぁ!」

嘔吐も治まり、荒い呼吸をしていると、その背を優しく撫でる手に気付く。

望美は縁側から地へと、体を乗り出したまま、顔を上げることなく、小さな声でリズヴァーンを呼んだ。

「せ、先生。すみませんが、お水を――…」

「わかった。待っていなさい」

小さな返事をした後、リズヴァーンは隠行でその姿を消す。

そして、すぐさまその手に、竹筒と、手ぬぐいを持って現れた。

「あ、りがとう、ございます」

望美は差し出された竹筒を手に取り、何度か、口をすすぐ。

喉は相変わらずひりひりしたが、冷たい水が、口の中をすっきりさせてくれた。

「――…って、ごめんなさい。お庭、汚しちゃいました」

望美は体を起こして、受け取った手ぬぐいで口を拭きながら、バツ悪そうな顔をする。

「それはいい。……大事ないか?」

「はい。吐いたら、楽になりましたから。あの、心配かけてごめんなさい」

「いや、私のことは気にせずともよい。それより、己の身を案じなさい」

「ん~。私は平気です。すっきりしたし」

「だが……」

望美の体を支えながらも、その背からリズヴァーンが心配そうに、少しだけ青さの残る顔を窺う。

だから、どこか困ったように、望美は笑った。

「そんな顔しなくても、大丈夫ですって。別にお腹が痛いわけでもないし」

「だが、お前の体調に気付かなかったのは、私の落ち度だ。……いきなり、起こしてすまなかった」

心配顔のまま、リズヴァーンが眉を八の字に下げ、小さな声で、謝ってくる。

でも、その姿が、甘噛みして怒られた子犬のようで。

つい、望美はクスクスと笑い声をあげてしまった。

「別に、先生のせいじゃないんですから、謝らないでください」

「いや、無理に起こそうとしたのは、私だ」

「でも、先生は悪くないでしょう?起きただけで吐くなら、寝起きは大変なことになってますよ?」

真剣な声で言われて、望美は余計に笑い声をたて、茶化したように言う。

「……それでも、声をかけねば、お前が苦しむコトもなかっただろう?」

「え~。先生に話しかけてもらいないほうが、吐くよりイヤですよ」

すこしだけ不服そうに言えば、その意味に気付いたのか、リズヴァーンがふっと、表情を和らげた。

「声をかけられるほうが、良いというわけか?」