「……何か、腹に入れてから眠りなさい」

この日も、縁側でウトウトしていると、そんな声が聞えて、望美はゆっくりと瞼を開ける。

そこには、半分呆れたような。

でも、心配そうな顔をしたリズヴァーンが、遥か高いところから、望美を見下ろしていた。

(お日様に光って、先生の髪は相変わらず、キラキラ綺麗だなぁ……)

なんて、のんびりと思いながら。

「ん~……。でも、今は、眠いんです~~」

ぽかぽかの日差しを受けながら、望美がふにゃりと笑う。

起きる気すら見せない望美に、リズヴァーンが少しだけ、眉をしかめた。

それに気付きながらも、望美はもぞもぞと、陽だまりの中、寝返りを打つ。

「だが、朝から何も食べていないだろう?」

「大丈夫ですよ、お腹すいたら起きますから……」

「それは、いつだ?」

「ぅん~、そのうち、です~」

暖かな日差しと、穏やかな空間があって、眠気に負ける気満々な望美が、起きていられるはずがない。

再び、瞼を閉じ、望美は思うままに惰眠を貪ろうとした。

の、だが。

リズヴァーンは大きくため息をつくと、一言。

「………望美」

ものすごく低い声で、名前を呼ぶ。

その瞬間。

まるでスイッチでも押したように、望美の目がパッチリ開いた。

その、地を這うような低い声の怖さは、望美自身が一番、知っている。

ええ。知っていますとも。

返事をしないと、どんな目に合うかは、身をもって教えられていますから。

本当に。

絶対に。

確実に。

……ろくなことにならない。

正座でコンコンと、説教地獄とか。

仕置きと言う名の下に、人の体を散々、好き勝手に翻弄させらたり。

最悪、呆れ返った先生に構ってもらえなくなる恐れすら、ある。

(そ、それだけは、マジでイヤ――…ッ!!!)

ここで、言うことを聞かなければ、それはもう、大変なコトになるのがわかるから。

本気で泣いて縋って、懇願しても、許してもらえないなんて、マジでとんでもないから。

「おっ、起きま――…っ!」

大慌てしながらも、望美はすばやく、体を起こそうとした。

が。

「――…ッ!」

全部言い終わる前に、急激に胃から込み上げてくるものを感じて、望美はパッと、口元に手を当てた。

「望美?どうした?」

咄嗟に心配そうな声が聞えるのだけど。

激しい胃のムカつきに、望美はとうてい返事など出来るはずもない。

ぎゅっと顔を歪ませて、きつく口を塞ぎ、必死に耐える。

だが、その吐き気はすぐに我慢できなくなり。

望美はそのまま、縁側の外に向かい、気持ちの悪さを吐き出した。