「女に骨抜き。と、言うんだ。」

一言、そう言って、ビスクールはまた笑い出す。

可笑しくてたまらないと言わんばかりに。

だが、次ぎに耳に届いたリズヴァーンの呟きに、ビスクールは、とうとう腹を抱えて笑うはめになった。

リズヴァーンは独り言のように小さく呟いたのだ。

「望美になら、何を抜かれても構わぬ」と。

ビスクールは笑い疲れて、縁側に横になったまま、大きな月をその瞳に写していた。

「はぁ…。やっぱり、お前は俺を楽しませてくれる。」

「そうか…?」

客を放り、幸せそうに女の髪を撫でながら酒を飲む友が、我関せずとばかりに、返事をする。

「あぁ。お前ほど、俺を笑わせるヤツはいない。」

「…勝手に笑い転げたのだろう?」

「そう思えるなら、相当の阿呆だな。」

ビスクールがニヤッと笑い、その顔をリズヴァーンへと向ける。

そして、女に腑抜けになった男をその瞳に移し、静かに口を開いた。

「――…だが、その阿呆も悪くはない。」

ビスクールはポツリと呟いた。

――…ずっと、ビスクールはこの阿呆な友を見てきた。

それこそ、幼い頃から、共に生きてきた。

昔からひたすらに、己と、剣だけを磨き、どこか影を背追って生きていた、友。

無口で、寡黙で、頑固者の友。

そして今では、愚かにも、女に腑抜けになった、友。

だが、この男が、もう、影を背負わずに、穏やかに生きていけるのならば。

この男が、幸せを手に、何者にも侵されず、笑って過ごせるならば。

――…友として、祝ってやってもいいと、思う…――。

ビスクールは幸せそうな友を傍らに、また、のんびりと月を眺める。

金色に輝く月は、金色に輝く髪を持つものたちを優しく照らし出していた。