「…何故、笑う?」

「おっ、お前も、ただの男だったんだな。」

怪訝な顔をして視線を向けるリズヴァーンに、ビスクールは笑いの間を縫って、言葉を紡ぐ。

「恋は盲目とはよく言ったものだ。」

「…どういう意味だ…?」

「俺が、お前の女を寝取るとでも思ったのか?」

可笑しそうに笑いながら話すビスクールの言葉に、リズヴァーンが眉を寄せた。

「…ビスクール…。」

「安心しろ。俺は『人』を抱く程、悪趣味ではない。」

ビスクールは、面白くて仕方がないと、声を震わせながら話す。

「あれだけ、禁欲的だったお前が、女一人でこうまで変わるとは…。」

笑いを収めようとしないビスクールに、リズヴァーンが小さくため息をつき、視線を望美へと戻す。

「…私は、それほどまでに、変わったか?」

ポツリと独り言のように零すリズヴァーンに、ビスクールが楽しそうな瞳を向けた。

「寄る女に見向きもしなかったお前が、今じゃ、たかが女一人に振り回されて、しかも喜んでいるなど、変わったとしか言いようがない。」

慰め一つない言葉に、リズヴァーンが小さく笑った。

「私は喜んで見えるか?」

「うたた寝している女に、膝を貸してやっている男が、それを聞くのか?」

皮肉気に今の状況を突きつけるビスクールは、ニヤッと笑いながら杯を開けた。

「そうだな。」

リズヴァーンもそれに気づき、楽しそうに口元を緩ませた。

「それにしても、そのヤニ下がったお前の姿を、他の奴らにも見せてやりたい。大笑いだ。」

ビスクールの言葉に、リズヴァーンが苦笑を零す。

「止めておくことだ。見世物になる気はない。」

「あぁ。残念だが、俺も命は惜しい。友に斬られたくはない。」

「私がお前を、斬ると思うか?」

どこかからかいを含んだリズヴァーンの声に、ビスクールが少しだけ嫌そうに眉を寄せた。

「その女を見世物にしたら、確実にお前は俺を殺るだろう?」

「無論。コレを害するものに容赦はせぬ。だが…。」

リズヴァーンが言葉を切り、すっと目を伏せる。

その姿をビスクールが不思議そうに覗き込んだ。

「『だが』なんだ?」

「だが、コレが鬼に会うことを望めば、私には止められぬ。」

微かに情けない声を出すリズヴァーンに、ビスクールは、また、笑い出した。

「…お前、そういうのを何と言うか知っているか?」

笑いを収めることなくビスクールがリズヴァーンに尋ねる。

「…わからぬ。」

「ならば、教えてやろう。」

ビスクールは、リズヴァーンを正面に見て、口を開いた。