おまけ→



リズヴァーンは愚か者だと、俺は思う。

『八葉』をその身に受けるなど。

鬼であるこの男が、神子を守るなど。

俺は冗談ではないと思った。

『人』の戦いに巻き込まれていると聞いて、何をバカなことをしているのかと、呆れもした。

そして今。

『白龍の神子』を嫁に娶るなど、やはり、リズヴァーンは愚かだと思う。

だが…。

――…俺は、友を止めようとは思わない。


綺麗な満月の下、縁側でリズヴァーンとビスクールは酒を酌み交わす。

「リズヴァーン。本気でその女と添い遂げるつもりか?」

杯に口をつけ、輝く月を愛でながら、ビスクールが呟く。

「無論。誰に言われようとも、手放すつもりはない。」

「首領である、俺が言ってもか?」

「そうだ。」

潔いほどの返事に、ビスクールは、眉を顰めた。

「そんな女の何処がいいんだ?俺には理解できない。」

ビスクールは酒を煽りながら、ちらりと、リズヴァーンの膝を枕に眠っている望美に視線を向けた。

望美はうっすら笑みを浮かべて、穏やかな寝息を立てている。

リズヴァーンは月を愛でることなく、花色の髪を優しく撫でていた。

いとおしそうに望美を見つめながら…。

そして、ふと、リズヴァーンが口を開く。

「…理解など、されようとも思わぬ。知ればお前も惹かれるだろう。」

「俺がか?」

心底、嫌そうに返事をするとリズヴァーンが視線をビスクールへと向ける。

「そうだ。鬼の首領だろうと関係ない。」

「馬鹿を言うな。俺はお前とは違う。そんな女、こっちから願い下げだ。」

吐き捨てるように言い捨てるビスクールに、リズヴァーンは静かに笑った。

「そうか。」

「当然だ。鬼には鬼がふさわしい。」

「ならばよい。」

淡々と交わされる会話に、ビスクールが何かに気づき、ぴたっと杯を止めた。

「……リズヴァーン。今、お前、俺に牽制したのか…?」

「………。」

「………。」

「…いや。確認したまで。」

間を置いたリズヴァーンの言葉を聞いた瞬間。

ビスクールは信じられないとばかりに、目を大きく見開く。

だが、すぐに肩を震わせ、笑い出した。