「ふざけたことを言うな!剣先を向けられて笑ったのは、お前だろう!?」

二人のケンカ腰の言葉の応酬を聞きながら、リズヴァーンは苦笑しつつ、ポンポンと望美の背中を軽く叩いた。

「望美、ビスクールに何か拭くものを持ってきなさい。」

穏やかな言葉に望美は、不機嫌そうな顔をしながらも、もう、怒ることもなく立ち上がった。

そして、ちらりとビスクールを見て、『お茶かけて、ゴメン』とポツリ呟く。

それはもう、『不本意』を顔に貼り付けながら。

でも、言われたビスクールは、一瞬、目を丸くした。

望美は、その表情を見ることなく、部屋の中に駆けて行く。


望美の後姿を視線で追いながら、半ば呆れたようにビスクールが呟いた。

「…わけがわからない。何故、急に謝ってくるんだ?」

「アレも悪いと、思ったのだろう。」

「…今更、か?」

「そうだ。アレは、思いのままを、すぐに言葉にする。」

どこか自慢げに話すリズヴァーンに、ビスクールが、フッと小さく息を吐いた。

「――…寡黙なお前には、似合いなのかも知れないな。」

ビスクールが、縁側に座りなおしながら、小さく独り言のように、言葉を零す。

「そうか?」

「あの女は、気に入らないが、それも、お前の言うところの運命とやらなんだろう。」

ビスクールは余計な一言を言いつつも、リズヴァーンに向かいニヤッと笑った。

「それに、お前が照れるところが見られてだけでも、ここに来た甲斐はあった。」

からかうような響きの声に、リズヴァーンが一瞬、バツの悪そうな表情を浮かべる。

「…ビスクール…。」

「お前が八葉などと、馬鹿なものになったと聞かされたとき以来の、驚きだ。」

楽しそうに笑うビスクールに、リズヴァーンが顔を顰めた。

だが、意を決したように、口を開く。

「…アレが、白龍の神子だ。」

リズヴァーンの一言に、ビスクールは驚きで、笑ったまま、固まったように動かなくなった。

「……はぁ…?」

間の抜けた声が聞こえ、リズヴァーンが意趣返しとばかりに、ニヤッと笑う。

「望美が、白龍の神子だったのだ。」

「…あっ、アレが、あの『龍神の神子』だと言うのか――…。」

ビスクールは信じられないものを見たように、目を丸くする。

「そうだ。」

「馬鹿を言うな。白龍の神子は、しとやかな女だと聞いたぞ!?」

驚きでいきり立つビスクールの前に、すっと、手ぬぐいが差し出された。

「…悪かったわね、しとやかじゃなくて。」

むすっとした顔をしながら、望美が『んっ!』と手ぬぐいを押し付ける。

ビスクールはそれを受け取りながら、リズヴァーンのよこに座る望美を、まじまじと見つめた。