――…伴侶を貶されて怒るのは、根底に不安があるからだ。

リズヴァーンはそう思っている。

認められなければどうしようか、と。

言われた言葉が真実で、自分の想いが間違っているのではないか、と。

だから、皆、怒りをあらわにするのだ。

だが、私にはその不安がない。

誰に認められたいわけでも、許されたいわけでもない。

たとえ間違った想いであろうと、私はただ、ひたすらに、望美を恋う。

「お前が私に幸福をもたらす。私が欲するのはお前だけだ。」

リズヴァーンが愛されている自信を滲ませ、話す。

すると、すぐに意味を理解して、望美は恥かしそうに、仄かに頬を染め、目を伏せた。

「…私だけが、先生をしあわせに出来るんです…。」

小さな声で望美が呟き、その頬を赤く染める。

「そうだ。私にはお前がいれば、それでいい。」

リズヴァーンは、望美の瞳を見ながら、優しく囁く。

――…望美さえ、この腕に抱ければ、他などいらぬ。

だからこそ、唯一の私の不安の種は望美だ。

その命が危険に晒されれば、たとえ友であろうと、剣を向ける。

その想いが、誰かに向けられれば、私は確実に怒りをあらわにするだろう。

だが、望美は私のために怒り、私を想って涙を流すのだ。

そして、私に愛されていると自信を覗かせる――…。

それがどれほど幸福なのか、至福のときなのか。

望美を膝に置き、その背を抱き締めながら、リズヴァーンは心が暖かくなるのを感じていた。

「だが、それを知るお前が、何を怒る?」

リズヴァーンは優しく目元を緩ませ、穏やかに望美に尋ねる。

「あの人が、エラそうなこと言いながら、友達ヅラするから、ムカつくんです。」

優しく聞かれても、望美ははっきりとビスクールを見ながら、言い放つ。

「何だと――…!?」

またもや、怒りを滲ませ、声を出す男に、望美は子供のように舌を出す。

そんな望美に、リズヴァーンは苦笑を隠さない。

「望美、ビスクールはあれでいいのだ。」

「…何でですか…?」

望美はムッとして、不服そうに呟いた。

「鬼に矜持を持ち、その心が首領として鬼をまとめる。だが、決して人を襲おうなどとは、考えない。」

「…でも、私、斬られそうになりましたよ…?」

口を尖らせる望美に、リズヴァーンが小さく笑った。

「お前が、要らぬことを言ったのだろう…?」

「この女が、俺を侮辱したんだ。」

すかさずビスクールが口を挟めば、望美も容赦なく文句を口にする。

「侮辱なんてしてないもん!ただ、先生を脅すのか、殺すのか聞いただけじゃない!」

「それが侮辱というんだ!『人』と同じような愚かな行為を、俺がするとでも思っているのか!?」

「なによ、か弱き乙女に剣先を向けておいて!」