「私たち二人のことも、私たちが掴んだ幸せも。そのすべてを棄てろって、あなたは先生に言ってるのよ!?」

望美はゆっくりと振り返り、両手でリズヴァーンの頭を守るように、ぎゅっと抱き締める。

「何で、友達なら一言、『よかった』って言ってあげられないの…? 」

どんなに嫌な人と付き合おうとも、その人が少しでもしあわせなら、まず、それを喜んであげるべきじゃないの?

散々、私を貶すのは構わないけど、先生は、そんな私を好きなんだって、少しは思い当たったって、いいじゃない。

誰だって、自分の好きな人を貶されたら、傷つくのに。

なのに、先生が怒らないのをイイコトに、あの人は、私たちの幸せを否定し続けた。

「いくら私を嫌ってたって、先生がしあわせそうなのは、わかるでしょう?」

その声は怒りよりも、悲しみを含み、二人の鬼の耳に届いた。

「友達って、そういうものじゃないの…?」

私を蔑むのも、嫌うのもいい。

はなから、認めてもらおうなんて、そんな都合のいいこと、思ってはいない。

でも、先生を傷付けることだけは――…。

それだけは、どうしても、私には許せない!

大事な人を傷付けられて、笑っていられるほど、私は寛大ではいられない。

リズヴァーンを守りきれていないと、望美の目から悔し涙がポトリと零れた。

「…望美。もう、よい。」

望美の腕に抱えられながら、リズヴァーンが穏やかに声をあげた。

「気持ちはうれしく思うが、お前に泣かれると、私が困る。」

「…泣いてなんか、いないです…。」

小さな声で望美が呟けば、その背に暖かな手が添えられる。

優しく撫でられ、望美は涙を我慢しながら、必死になってリズヴァーンにしがみついた。

リズヴァーンは少し息苦しそうに、でも、うれしそうな声で望美に語りかける。

「私は、幸福だ。誰に何を言われても、それに変わりはない。」

「…でも、あの人の言うことはムカつきます…。」

「私は気にならぬ。何故だかわかるか?」

優しく尋ねられ、望美は少しだけ考えに耽る。

だが、降参とばかりに、ゆっくりとリズヴァーンの頭を離し、その瞳を窺った。

その涙の残る瞳が、リズヴァーンには愛おしく思えた。

「…わかりません…。」

目の端を手で拭いながら、素直に言うと、リズヴァーンの笑みが深まる。

「周りに何を言われようとも、お前が傍を離れることはないと、知っているからだ。」

穏やかに自信を持って語られる言葉に、望美は一瞬、きょとんとする。

そんな望美の顔へと、リズヴァーンが手を伸ばす。

そして、いとおしそうに、望美の頬に残る涙のあとに指を添えた。